- 1. 非日常が引き起こす心理変化と「新奇性効果」
- 2. 「気になる場所には自分の足で行く」— 行動が転機をつくる
- 3. 自己変革体験(Transformative Experience)という視点
- 4. 15歳の衝撃—9.11を“自分の目で見たい”と思った日
- 5. 父への直訴とニューヨーク行き—転機の扉を開ける
- 6. 紙の地図を片手に歩いたニューヨーク
- 7. 自由の女神の帰り道—「勉強したい」が初めて口から出た
- 8. 帰国翌日から、動き出した人生
- 9. 難関大ではなく“あの街で学ぶ”という選択
- 10. 留学準備と父との交渉—現実を動かすコミュニケーション
- 11. 今につながる一歩—キャリアと非日常の関係
- 12. 新奇性効果×自己変革体験が人生を動かす
- 13. この記事で紹介した心理学の用語まとめ
非日常が引き起こす心理変化と「新奇性効果」
私は、高校2年生まで、勉強が苦手で、親を失望させ、時には非行にも走る、特に将来のことも考えていない、親不孝者でした。しかし、ある一度の非日常の経験が、私の意識を変え行動を変え、その後の人生に大きな影響を与えました。
心理学的に言えば、これは「新奇性効果(Novelty Effect)」と呼ばれています。人は新しい刺激や未知の環境に触れると、普段以上に感情や注意が動かされ、価値観や行動の変化につながりやすいのです。まさにその効果を私は体験しました。
この意識・行動の変化に、どんな心理の変化があったのか、考察して行きます。
「気になる場所には自分の足で行く」— 行動が転機をつくる
この考えを、私はずっと大切にしてきました。そこには、自分の価値観を変える出会いがあり、学びがあり、視野を広げるきっかけがあります。
私自身、「人生の転機は、自ら足を運んで見つけに行く」という教訓を、これまでの経験の中で得てきました。
自己変革体験(Transformative Experience)という視点
転機は、自らの一歩の先にある。
人生が変わる瞬間、誕生・入学・卒業・結婚・出産などなど、誰にでも変化の瞬間は訪れます。その中でも、超特大な人生の転機、人生をひっくり返すほどの転機、これを見つけに行動することが大事です。
「気になる場所に行くこと」を私は大切にしています。自分の足で知らない場所に行き、空気を感じ、景色を見て、心が動く。そんな「行動」が、人生を動かす大きなきっかけになることがあります。
心理学的には、これは「自己変革体験(Transformative Experience)」と呼ばれます。自分の価値観や自己認識を根本から揺さぶる経験であり、その後の人生や選択に強い影響を与えるものです。私自身、若かりし頃に踏み出した一歩が、後に人生を大きく動かす転機となりました。
15歳の衝撃—9.11を“自分の目で見たい”と思った日
中学3年生のある夜、いつも通り勉強もせず、テレビを観ていた私は、突然のニュース速報に目を奪われました。
ビルに飛行機が突っ込み、ビルが崩れ落ちる。
「9.11アメリカ同時多発テロ」
それは、自分が初めて目にしたリアルな世界のニュースでした。画面越しでも衝撃は強烈で、若干15歳の私は、ただただ呆然と画面を眺めていたことを覚えています。
それから、ずっと心の中に残っていたんです。
「いつか、自分の目であの場所を見てみたい」と。
不謹慎かもしれませんが、テロがあった地を見たいというよりは、初めて感じた衝撃的なニュースの街を訪れたいという欲だったと思います。
父への直訴とニューヨーク行き—転機の扉を開ける
父に、恐る恐る頼んだこと。
若かりし頃の私は、勉強が苦手で、テストの点数もひどいものでした。
小学生の時、今でもしっかりと覚えていますが、国語のテストが27点。他の科目も同様、答案用紙を父に見せた時の、父の怒りと落胆が混じった表情は今でも忘れられません。
中学生時代も、つるむ仲間はいわゆるヤンキー達、テスト前に部活が休みになれば、勉強ではなくTSUTAYAにCDを借りに行く日々。結果テストはズタボロ。父親となるべく顔を合わせないように家ではひっそり暮らす。高校は地元でも学力が低いとされる学校に進学しました。
父親の険しい表情を横目に、テキトーな生活を過ごしていた私ですが、沸々と込み上げる一つの想いがありました。そして、私は思い切って父に言いました。
「ニューヨークに行ってみたい。連れて行ってほしい。」
息子から意外な言葉を浴びせられた父は驚き困惑していました。しかし、父が当時ヤンキースで活躍していた松井秀喜選手の大ファンだったこともあり、観戦を理由に了承してくれたんです。普段会話をしない男ふたり、ニューヨーク旅行が決まりました。
紙の地図を片手に歩いたニューヨーク

高校2年生の夏休み、当時はまだスマートフォンも存在しておらず、紙の地図を片手にニューヨークの街を歩きました。当時の私はショッピングや美術館に興味は全くなく、ひたすら歩いて歩いて歩きました。
観光名所を巡りながら、ただ街の雰囲気を感じながら歩いた時間。
その体験が、私の価値観を大きく揺さぶりました。
高層ビル、行き交う異国の人々、街のスピード感、聞きなれないサイレン、街のエネルギー、まったく理解できない本場の英語、すべてが自分の今まで見てきた世界とは違っていました。
そして、強烈な焦りが芽生えたんです。
「このままじゃ、自分は負ける。」
自由の女神の帰り道—「勉強したい」が初めて口から出た
アメリカの象徴でもある自由の女神を見学した帰り道、私は父に尋ねました。
「英語って、どうやって勉強したらいい?」
父が何て回答してくれたかは全く覚えていませんが、自分が「勉強したい」という意思表示を父に恥ずかしくも示した人生最初の瞬間だったと思います。
あのニューヨークの街で感じた雰囲気、誰かに何か言われたわけじゃなく、「自分は変わらなきゃいけない」と思えた、自分の心が動いた瞬間でした。そう、人生の転機です。
帰国翌日から、動き出した人生
日本に戻った翌日、私は机に向かい、英語の参考書を開きました。高校入学時に購入してから一度も開いたことがなかった、3cmぐらいの分厚い参考書。
何をどう勉強すればいいのかわからなかったので、とりあえず1ページから読みはじめました。
それまで勉強してこなかった身ですし、先生に聞くにも夏休みだし、でも勉強したい欲が溢れているし、とにかく参考書を1ページずつ開いていきました。
新学期が始まってからは、毎朝、英単語帳を開いて、黙々と書き、ぶつぶつと声に出して覚える日々でした。
その頃はまだ、進学や将来について明確な目標はありませんでした。スポーツの専門学校を見学していたくらいで、将来を真剣に考えていたわけではありません。
でも、ニューヨークから帰ったあの日を境に、少しずつ変わっていきました。「大学に行きたい」という思いが芽生え、やがてその気持ちは大きくなっていきました。
難関大ではなく“あの街で学ぶ”という選択
受験勉強にも本気で向き合うようになり、英語以外の成績も伸ばし、周りのクラスメイト達とはまるで別世界。先生達からしたら超優等生に見えたでしょう(たぶん)。
難関大学への進学にも憧れ視野に入りましたが、ある時ふと考えました。
「今からの努力で自分がいける大学って、たかが知れてる。受かったとしても、周囲は自分より優秀。だったら、自分は他の道を選びたい。」
どうすればいいのか、頭をよぎったのは、自分の人生を変えるキッカケとなった場所、ニューヨークへの留学でした。
留学準備と父との交渉—現実を動かすコミュニケーション
それから私は、進路相談室にこもり、どうすればニューヨークの大学に進学できるか調べる日々でした。
私が目指したことは、語学留学や短期の留学ではなく、「現地の大学に入り、卒業する。」それが目標でした。
そのためには準備が必要だと考え、高校卒業後すぐに渡米するのではなく、留学準備の専門学校に1年通うのが良いと、結論づけました。
ある夜、初めて、私は父に留学したい意思を伝えました。強く反対されました。勉強する体質になったとは言え、幼い頃から全く勉強しない私を見ていた父なので、お金の工面もありますし、留学して卒業までできるのか心配だったのでしょう。
この交渉は連日、夜遅くまで何度も話し合いを重ね、思いを伝え続け、父親にも専門学校に話を聞きに行ってもらい、最終的には納得してもらうことができました。
今につながる一歩—キャリアと非日常の関係
ニューヨーク州立大学への進学、卒業までの道のり。これは、今回私が伝えたい「人生の転機 気になる場所に行くこと」とはまた別の話なので割愛します。
今現在、私は海外赴任という立場で働いています。
ニューヨークの大学を卒業後、新卒で入社した会社は、もともと国内事業だけを行っていた企業で、英語を使う機会もありませんでした。
それでも、10年を経て、会社が海外事業にチャレンジするタイミングで、数多くいる社員の中から、私は新規海外事業のスタートメンバーに選ばれました。
従業員の中に海外経験者や英語を扱える社員がほぼいない…という理由もありますが、留学を決意した自分の過去の選択が、今の自分の立場に繋がっています。
間違いなく、あの夏にニューヨークを歩いたこと、あのとき感じた焦燥感、そこから始めた小さな努力の積み重ねが、今につながっていると思っています。
新奇性効果×自己変革体験が人生を動かす
最後に:転機は、自分でつかみに行くもの。
人生の転機は、誰かが与えてくれることもあるかもしれません。でも、本当に大きな転機は、自分の中に生まれた直感や衝動から始まるものだと、私は信じています。
「新奇性効果」によって私たちは新しい環境で強く心を揺さぶられます。そして、その中で「自己変革体験」を得ると、人生の方向性が大きく変わるのです。
もし今、皆様の中に「行ってみたい場所・イベント」があるのなら、ぜひ、その場所に足を運んでみてください。必ずそこには、人生を動かす大きな気づきが待っているはずです。
この記事で紹介した心理学の用語まとめ
- 新奇性効果(Novelty Effect)
新しい刺激や未知の体験に触れると、普段以上に注意や感情が動き、学びや気づきが深まる心理効果。非日常に出かけることがモチベーションや行動変容のきっかけになります。 - 自己変革体験(Transformative Experience)
価値観や自己認識を根本から揺さぶる体験のこと。その後の人生や選択に大きな影響を与え、人生の転機となる力を持っています。